狐のだんぶくろ―わたしの少年時代 (河出文庫)

狐のだんぶくろ―わたしの少年時代 (河出文庫)

「し」
志賀さんも借りているので、暫定的に50音。渋澤さんのことは名前ぐらいしか知らなくて、好みのものかもしれないと予感してはいたのですが、今回読んだものはエッセイだったのでやわらかな文体のことしかわかっていません。
戦争や地震など、当時のことに関して述べられてはいるものの、飄々としているので足踏みをしてしまうほどの重さまでは込められていませんでした。そのくせさらっとびっくりするようなことも書いてあるので、彼の人間的魅力が垣間見えました。「のらくろ」や銀座や滝野川など、今とつながりのあるものに関しては、過去までさかのぼって知りたくなりました。
一番最後に出てきた、今の若い人は「たいそう」ではなく「とても」という言葉を使うというくだりに疑問を覚えていたら、昭和57年頃に連載されていた文章ということで合点がいきました。今なら「とても」は文としては使用頻度が高くても、口語としては「とっても」の方がまだしっくりきて、それよりも「かなり」「けっこう」「ちょう」などの方が使いやすいことでしょう。考えてみると、当時よりveryにあたる意味合いの言葉が増えてきていて、これは時代性もあるかもしれなくて、伊集院さん風に言うならばオレニカロゴスの世界に入っていくのも楽しそうです。