『ディア・ドクター』*3

どうしても劇場で見ておきたかったのであわててレイトに駆け込み堪能しました。内容に触れるので閉じます。


扱っている問題が前回よりも増えたせいで散漫になってしまっている印象も確かにあって、ストーリーの本筋だけ追うとそれほどでもない、と斬り捨ててしまう人もいるかもしれませんが、要素が増えた分引っ掛かる可能性も増えたわけで、私はその中の一つに見事、吸い込まれてしまいました。
自分がついた嘘から逃げきれなくなってあたふたしてしまったりする部分は伊集院さんのラジオを聞いている身としてはそうねそうねと頷きながら見たりもしつつ、一番引き込まれてしまったのは八千草さんと井川さんの二人のシーンでした。病に侵されているとわかりつつも自分の生活を崩したくないし子どもに迷惑をかけたくないと思っている母親と、助けられなかった父親のような存在を作りたくなくて医者となった娘、その二人の関係性がわかった上での無音のやりとり。静寂の中、少しの表情の変化だけで見せる、あるいは見せまいとするあまり家族だから、同じ女だからこそ悟ってしまう言語のようなものが存在していて、それほど長い時間ではなかったのですが、気づいてしまったけれど気づかぬふりを続けた娘の表情を見たらもう、我慢できませんでした。これは同性だから感じたことなのかもしれませんが、自分にとっても同性である母親とのコミュニケーションにおいて言葉だけではなく伝わってしまうことがあり、家族だからこそ共有し合えるものがあって、わかるからこそ余計に気持ちがたかぶってしまいました。
それにしてもこのシーン、八千草さんは言わずもがなですが井川さんの表情も良い! 『トウキョウソナタ』においてもやけに色っぽい井川さんに目を奪われていたのですが、今回は家族を思っているのに器用で不器用なため上手く機能しない医師の内面の強さがよく出ていて、またしても気になってしまいました。
ラストに関しては賛否両論ありそうで、どうしようもないほど救いがない展開が結構好きな身としては優しいなあという印象もありますが、結果的に今回も香川さんが素敵だったのですべてはチャラです。良い人なのか悪い人なのかわからない、つかめないけれどそれこそまさに「人間」である役を演じている香川さんに釘付け……ホウキか竹やりか何か、長い棒で天井をつつく香川さんに見とれるばかり。