田中慎弥「切れた鎖」

切れた鎖
自分の中の妄想にとりつかれていって、四六時中誰かに見張られて狙われているような感覚を持ったり、観念的になりすぎてわかっていたとしてもそこから逃れられなくなっていたり、次第に息苦しくなっていくところは、田中さんの作品を褒めていた小川洋子さんの世界に通ずるところがあるかもしれません。いきなり狂うのではなく、それぞれに要素があって少しずつ侵食していく、蟻地獄にはまっていく様子が三作品とも描かれていました。表題作にも惹かれましたが、倒錯していく様子が丁寧に描かれていく「不意の償い」がなぜだか印象に残っています。