『ヒトラー 〜最期の12日間』

ドイツ映画祭にも先行上映にも試写会にも行けずじまいで、このまま『モレク神』のように見逃して見逃して放置状態になってしまうのはまずい、と思って割引の日にここぞとばかりに劇場へと足を運びました。
上映劇場にはいつもよりも年齢層の高い方が多く、男の人の割合が多いことにも驚きました。八割方埋まっている席でゆったりと、じっくりと作品を味わうことができました。
パンフレットを読んでヴィム・ヴェンダース監督がこの作品を批判しているとありました。*1確かにこの作品の中のヒトラーだけ見ると完全なる悪ではあるのに人間らしさが出ていて、憎みきれないところがありました。大量虐殺の場面を描くことなく、シーンは主人公である秘書の少女が雇われるところからすぐに終焉を迎えつつあるところまで移り変わってしまいます。ということはつまり、非道を尽くした描写もないかわりに、栄華を極めた描写もないわけで、ヒトラーのカリスマ的魅力はあまり感じられないようになっています。傍にいた主人公の彼女や周囲の人間が心酔しているところから、それほど魅力的な人間なのだとわかるぐらいで、描かれているのは哀愁漂うおじさん、どうしようもなくなって当り散らして、見えている終わりに向かって突き進んでいく物悲しいひとでした。だからこそ観客は少し戸惑ってしまうのでしょうし、批判が出てくるのでしょう。
今まで出てきたヒトラー関連の映画は彼がしてきたことや彼にされてきたことを描写することでその非道さを知らしめてきたので、一本ぐらいこういう作品があっても良いのではないか、というのが私の素直な感想です。この作品だけ見たらとても危険な思想を持ってしまうというだろうという心配はありますが、絶対数としてそうではないものの方が多いので、こう言った側面もあったという意味で重要な作品ではないかと思います。そして何より、実際に秘書だったユンゲが「若さは無知の言い訳にはならない」と言っていた最後の言葉が胸に響きました。作中じっと画面を見つめながら、どこかから聞こえてくる泣き声に耳をすませて、泣く資格もないし泣くものではないと唇を少し、強く噛んだことも思い出です。


ちなみにこの作品で一番驚いたのは、監督が『es』を撮った人だったということでした。