アナログフィッシュ 10周年記念祭り"10×10×10"

そうだった、彼らのロックはハーモニーだった、というのが一番の印象。一曲一曲がクライマックスで、自分の目をあのカメラにしてもらいたかったです。


果たして人はいるのだろうかと開演ギリギリに到着すると、想像していたよりもフロアが埋まっていて一安心。センターステージをぐるりと囲むようにお客さんが待っていて、全体を見たかったため上の方でじっくりと見ることにしました。
笑ってしまうぐらいの演出にはずるいと思いながらも結局は乗せられてしまいました。曲が始まる前のあの一声で、途切れていた道がつながったのを感じました。
四人体制のアナログも好きで、四人で作り上げたと思わせてくれた「平行」は初めて聞いた時にゾクゾクするほどで、だからこの人たちには別の可能性もあるのだと思わせてくれました。妥協ではなく別の道、こうなるかもしれないというかつてとは違ったイメージ。それがあって今回の三人のアナログは、最初から三人だったというような印象とも違っていて、違う道のことを含めこちらを選んだ、だから「こうあったかもしれない」という未来を切り捨てたという覚悟も感じられました。同じではあるけれど同じではない、その間には「平行」がありました。
センターステージまわりにもいくつか、上段にもカメラがあって、その映像がもともとのステージのスクリーンに映し出されていたのですが、それが驚くぐらい鮮明で格好よく、実際に自分の目で見るよりも映像として切り取られた彼らの方が何倍も何倍もスタイリッシュに見えて、これがプロの視点か……とついスクリーンの方を向いてしまいました。だからこの日のライブがDVD化されると知って、作りもののようにさえ見えるほど、切り取り方が格好良かった視点を見られるのだと思うと楽しみでたまりません。
斉藤さんの、あのドラムの叩き方、眼鏡の飛ばし方、かけ声。本当に戻ってきたのだなあと胸がざわざわしつづけていて、彼らが音楽を続けてくれて良かった、そしてこれからもどうか続けてくれますように、と祈るようにこぶしを握りしめてしまったのは、私が彼らから多くのイメージをもらっているからでした。アナログの曲を聞いていなければ「まち」について考えることがなくて、センターステージの最後で奏でられた「出かけた」で自分の中のイメージがさらに広がっていきました。
気負いすぎではないのかというぐらいそれぞれの曲の密度が濃く、「さかな道」から引き継がれる形で音と声が重なった「昨日」と「今日」についての曲がその後頭の中で何度もリフレインするほど強いものでした。シンプルなあの魚がスクリーンに映されていて、それが生命を与えてもらったかのように動き出し、曲に反応して泳ぎ出す。にっくいなー、ずっるいなー、と思いながらも、展開していく音と映像とに釘付け……どころかどこを見て良いのかわからないぐらい見どころがたくさんでした。「明日」へはまだつながず、あるのは「昨日」と「今日」だけ。ライブでいっそう映える曲だったので、これは是非またやってもらいたいです。
三人から四人、そして三人。その間をつないでいた曲の中で「Sayonara 90's」は斉藤さんがいる時から演奏されていたこともあり、自分の中で飽和状態になっているのを感じていたので意外と冷静でいられました。ただ「かっとばせー!」の部分がどうなるのか気になって、斉藤さんのあの生声と、お客さん側からの声が重なった瞬間は鳥肌が立ちました。ステージからのものがフロアからのものになり、そして二つを投げかけ合うようになった関係性、それでも私はまだ声を放つことはできませんでした。
生まれて初めて目にしたものを親と思ってしまう鳥と同じような性分なので、「平行」に関しては斉藤さんのドラムだと違和感がまだありました。クールでソリッドな感じ、四人でつくりあげた曲。あの曲すごいという評判だけを聞いていていざ実際に聞いてみた時の、あの感覚が残っているせいか、気持ちと目の前の音とでズレが生じてしまっていて、素直にまだ受け入れることはできませんでした。これから聞いていくうちに慣れていくとは思うのですが、この曲はビッツくんドラムで音源に収録されることを願ってしまいます。木村さんから入るあの鍵盤のイントロとドラムとのかけあい部分だけでもぞくっとします。
当たり前のように歌われるハーモニーはきれいで当たり前すぎて、今までそこになかったのが不思議なくらい存在感を持って楽器の音に入り込んでいました。切り捨てた可能性の中で切り捨てられていた可能性の一つが、彼らにとってのロックであるハーモニー。私がアナログを好きになった原因の一つにもやはり美しいハーモニーがあって、脳内で重ねることで補完していた声が実際に聞こえた「夕暮れ」は、ステージでもなく思い出でもなく、ただただ曲の世界の中に連れていかれました。


書き出したらキリがないので後はDVDを見てこの日のことを思い出しながら噛みしめるつもりです。彼らからしかイメージできない世界があるので、とにかく続けてくれて良かったです、ということぐらいしか言えません。