ゆぅ「小さな約束」

小さな約束〈上〉
小さな約束。〈下〉
少し前の少女漫画をノベライズ化したかのような内容で、非常にわかりやすく慣れている人ならば五分程度で読み終えてしまうものでした。展開も思った通りに進んでいって、設定も女子高生とお兄ちゃんと呼ぶ幼馴染の格好良い男の子と、同居とすれ違いとそこからのいざこざ、王道を行っているので安心もできました。揶揄しているわけではなくて、これがケータイ小説としてはよく出来ている、ということを言いたいだけです。なぜかと言えば、確かに今時の言葉で綴られていてスペースたっぷりな割に行間を読むようなものではないのですが、それを作者がわかってやっている、と感じられる節がちょくちょく出てきたからでした。
求められるものをわかった上でそれを提供している、だからコミュニケーションとしては成立しているのでしょう。私は携帯で物語を読むことに抵抗があるので横組み色文字の本になったものでしか読んでいないのですが、実際に携帯で読むと違った印象を持ちそうな気がします。スクロールすることで出てくる文字、そこにあるスペースでリズムをとって、呼吸するように会話を続けていく。若い子が書いたものだとよりリアルさが出ているのかもしれませんが、この作品の場合はちょっと距離を感じました。地の文では「私」とあるのに会話文では「あたし」ときちんと使い分けがされていて、言葉遣いは若くてもこだわりがあるように思えました。だからちょっとだけ難を言えば、最後の展開はありがちすぎるありがちだったので、もう一ひねりぐらい欲しかったです。いかにもな感動系ではなくユーモアを交えるところもふむふむと頷きながら読みました。
ケータイ小説の単行本はシンプルな中にも輝きがあるので、装丁が好みで所有欲をそそられる人もいそうです。