「哀しい予感」

ちらっとだけ見てしまったところの評価が気になるものの、自分で体験してみないことにはわからない、ということで期待と不安を抱えて久しぶりの本多劇場へ。


順番を間違えてしまったかな、というのが意識としてわいてきてしまいました。ストーリーを忘れたまま舞台を見て、その埋め合わせを行って観賞後に本を読み返した方が私には向いていたのかもしれません。なぞっていく展開を頭の中で追ってしまって、原作に忠実に、その世界を壊さないように大切に作り上げられているのがわかってしまったので、塚本さんが本当にこの作品が好きだということをひしひしと感じて、余白の多い作品を立体化させることの難しさを考え始めてしまいました。特に私の場合はその隙間があればあるほどに想像で補ってしまって別世界が作り上げられてしまうので、組み立てる前に視覚化されたものを見ておけば良かったなあと何度も思ってしまいました。
とはいえ文字だけだった世界は大事に現実のものとして表現されていて、浮いてしまういくつもの言葉はありましたが花柄のワンピースに花柄のカーディガンの組み合わせが良く似合う市川実日子さんや、チェックのシャツにデニムといういかにもちょっと田舎の高校生という格好の加瀬亮さんの存在感はしっかりとしていました。映像から受ける塚本さん作品の印象とはまるで違って、奇をてらうよりも必死できちんとしたものを作り上げているかのような感触。普段あまり舞台を見ないので他の作品がどうなのかよくわかっていないのですが、ステージの上にもう一つ円形の舞台があってぐるっと転換するようになっていたところで、静かにストーリーが展開していくのにその裏から人の足音やら何かを解体する音やらが思いっきり聞こえてしまったのがもったいないなあ、と他にも色々な音に反応してしまいました。
ただ今回とてもとても反応してしまったことは、生の加瀬さんで、しかも加瀬さんに対して素敵さを見出すのではなくまったくもって別のことを思い出してしまったからでした。昔バイトしていた塾において一番手のかかった子に、生の加瀬さんがそっくりでした。なんでちょっと待って、とびっくりするぐらい。その彼はどの先生もお手上げとなるぐらい大変な子で、高校へ行くのも難しいかもしれないという、非常に印象深い生徒だったのですが、小六の頃から知っていたために投げ出させるわけにもいかず、半分キレながら授業していた覚えがあります。まるで勉強はできないのに女の子に関することは天才的で、キープと彼女の間ぐらいの女の子と見に行った映画がよっぽど気に入ったらしく、中三で筆箱に「8mailu」とサインペンででかでかと書くような子でした。そんな彼も推薦で行く高校が決まり今や再び受験生、大学に行く気満々らしいという噂を聞いていたらさらに推薦で行く大学も決まったらしいという話を聞いて、他の受験生が必死になっているこの時期にきっとへらへらしながら女の子と遊びまくっているのだろうなあ、ということまで加瀬さんの横顔を見ながら考えてしまいました。中学生だったあの子たちの間では気持ち悪がられているほどだったのに、そうかああいう風にも見えるのか、と思い出まで出てきてしまってたいへんでした。