失はれる物語

失はれる物語

ライトノベルと文芸との垣根は昔ほどなくなっていて、ハードカバーでも改行改行で行間を楽しむどころではない空白が満ちている作品も出てきているので偏見はなくなってきているのかなと思うのですが、どこか根底に一線を引いているようなので、初対面でどんな作品を読んでいるかと聞かれたときにライトノベルのものを挙げるには、まだ躊躇してしまう自分がいます。装丁というパッケージの違いだけ、ということでもないのでしょうが、どうしてか意識に違いがあって、ライト系の作品も時々読んでいてドラマがあったり描写に気をつけていたり細かな表現にもこだわっていたりと見劣りしないものだってあるのに、植えつけられた先入観というのはなかなか取れないようです。
そんなことで、あとがきを読んでから本作品がライトノベル系の文庫からハードカバーの単行本になったものだと知って色々と考えました。作品の内容はというと短編集で、乙一さんとしてはダークな面の少ない、やさしい話が多かったです。謎解き要素もすぐに想像がつく範囲で、思い通りに展開していったとしても期待はずれになることなく安心して読みすすめられて、思春期に読んでいたら相当はまっていただろうなあとしみじみ。