薬指の標本

薬指の標本

家の本棚を漁るより図書館で見つけた方が早い、という結論に達したので借りたら早速読んでしまいました。おぼろげになっていたイメージを映画によって形作られてしまったので、言葉を読んでいてもそれぞれに映像が浮かび上がってきて、原作にはない描写のことを思い返しながらひっそりと描かれる静かな世界に入り込んでいました。あまりにイメージ通りだった映画の映像がこびりついてしまって、登場人物の名前が違くてもまったく気にならなくて、異世界の生活へするすると誘い込まれてしまいました。映像だけなのに独特のにおいまでしそうな感じ。中篇だったので、収録されているもう一つの作品の方もひそやかに狂おしく、余白の濃密な世界を堪能しました。ゆっくりと失われていく何か、最初から欠落している何か、そのアンバランスさがひどく魅力的に思えてくるのは、かわいた文章からにじみ出る色気があるからなのでしょうか。