天の夕顔 (新潮文庫)

天の夕顔 (新潮文庫)

ひとつひとつの文がなんて美しいのでしょう。「わたくし」という一人称からして気取っているようにも思えるのですが、全然お高く止まっていなくて随分と昔の作品なのにすらすらと読みすすめられました。表現をこしてフィルターを取ってしまったら純愛を装った変態ぎりぎりの物語ではあるものの、ストーカーまがいのことをしてしまう主人公の情けなさや、お互いに素直になれずに長い間思い続けているもどかしさなど、普遍的なテーマを扱っているのであまり躊躇することなく向き合うことができました。それにしてもなんと表現の美しいこと。外国にも翻訳されて受け入れられたというのも素直に納得できるのですが、これは日本語で読んでこそ感じる部分が多くあるとも思えました。

「この籐椅子におかけになって」
「どうするんです」
「どうでもいいのよ」
「わかった。あなたがあとでかけるんでしょう」
「ええ」

おそらく年を経る度に見方が変わってくるであろう作品なので、手元に置いておきたくなりました。