ダンボールボートで海岸

ダンボールボートで海岸

「ち」
中村−義、ス−パ−カ−、ポゼッション、ツィゴイネルワイゼン等々引っかかるべきキーワードがいくつも散りばめられていて、時代性を感じさせるものでありながらこの時代に生きるボクという少女のことを丁寧に描いてありました。乾きすぎてもいないしじっとりしすぎてもいないし、ちょうど良い具合の湿度の文体で、ニュアンスに逃げずにきちんと言葉で説明されているところもありました。内容としてはモラトリアムものにくくられるのかもしれませんが、私と同世代やもう少し下ぐらいの人たちに対して使われる空虚感や無気力さがかなり現実的に書かれていて、登場人物は割と特殊な状況下にはあるけれど読んでいて共感する人が多いだろうなという印象を受けました。美人で気が強くて芸術家であるハナという女の子のイメージがどうしても『花とアリス』における蒼井優で、でもボクの方はなかなか思い浮かばなくて一苦労、結局ボブの黒髪で背が低くてうつむき気味に歩く、というところまでしか突き詰められませんでした。
ジュビリーという曲名が出てきて反応しつつも、引っかからないぞと至って平常心を保っていたのですが、終盤の盛り上がりで出てきたものがソウルセットの「MORE BIG PARTY」だったので、え、と頭の中で「待て誰か笑ってるやつがいる」というビッケの声が自動再生されてぞわっとなってしまいました。悔しいけれど少なからず共感してしまうところがあって、違ったテーマを扱うとどのようになるのか気になるので他の作品も読んでみたいです。