小沢健二 ひふみよツアー

間が抜けていますが、とりあえず今はこれだけ。真夜中のラブレター化現象を久しぶりにやってみます。曲よりも演出的なネタバレが心配なので、これから見る予定のある方は全力で避けてください!
 
追記。
落ち着いたので他の方のサイトを見てみたら、見事に自分の記憶が捏造されていたので修正しました。


感じるライブ、体感するライブ。「ダイアログインザダーク」へ行くと気持ちだけでなく身体も生まれ変わるような感覚があるように、暗闇から始まったライブはあらゆるものを一度リセットされたように感じました。視界を奪われているので他の神経が研ぎ澄まされて、隣には人がいるのか、ステージ上に人はいるのか、今聞こえる音はそこから発されているのか、耳に入ってくる声は本物なのか。不安を抱えながらも演奏はつづき、歌声もつづく。「流星ビバップ」の世界が作り出されて、そのまま流れるように停電に関する朗読が始まりました。
目が暗闇に慣れ、星のようにステージの天井がうっすらとした光を放っても世界は曖昧なままで、朗読の中で語っていた「闇」という漢字について考えていて、自分の中によくわからない思いがあふれかえっていました。言葉を伝える手段として声を使うということや、考えを押しつけないための口調、示唆もたくさんあるけれどそのままの意味でだってかまわない…‥表現についてあれこれ考えていても音はずっと流れていて、「ぼくらが旅に出る理由」の途中でライトアップ。ようこそ現実へ、と言われているのに自分が見ているものが本物なのか、それさえ信じられないぐらい不思議な感覚がありました。
曲と曲の合間に朗読が入り、その流れがとても自然でショウを見ているような感じもあり、「ラブリー」では歌詞の変わった箇所だけ練習して「つづきは一時間後」というおあずけをくらって、そういう演出もにくい!この!と笑顔のまま受け入れて、まさかのまさかの「カローラ?にのって」! アレンジが相当加えられていたので最初は何の曲かわかりませんでした。大衆に受け入れられるもの、たくさんの人に届けるためのもの。大味と評されてしまうことやそこにまぶされた少しの調味料、大衆音楽と紹介されたのがその曲だったことに、笑いながら納得もしました。
お客さんは私と同年代ぐらいの方が多かったのですが、同じものを本当に共有してきたのだなと実感したのが、「今夜はブギーバック」におけるラップ合唱でした。カラオケでもないのにラップをみんなで歌うなんて経験、この先ないような気がします。ミラーボールが下りてきてホール全体がムーディーになって、今日はナイスボーカルバージョンだったので「1 2 3 を待たずに」の「を」のタイミングはばっちりそろえました。ゲストでスチャダラが出てくるのでは、という期待よりもその裏切り方が実に鮮やかかつ予想外だったので、演出にくいにくいとそればかり思ってしまいました。
新曲もいくつかやったのですが、音だけいきなり聞いたらどうしちゃったのこの人、と思われるかもしれない、盆踊りというか民謡というか、そういう古くから唄われて踊ってきたような要素を持った曲が楽しくて、フェスで聞きたくなるぐらい外の空気を感じました。

スコーンと抜けるような爽快感が全体的にただよっていて、それでもたださわやかなだけではないのは重ねてきた時間が個々にあるからなのでしょうか。かつて聞いていた音とその当時の記憶、そこに現在鳴らされる音が重なって目の前の風景が記憶に埋め込まれていって、層を成していく。私はものすごく聞いていたというわけではないのですが、それでも過去と現在とが並行していく感覚がありました。過去の音は過去の音、現在の音は現在の音、重なる部分もあるしはみ出す部分もある、たとえば歌詞を変えた「ラブリー」も「いちょう並木のセレナーデ」も違っているのは言葉だけではなくて、それは懐古とも違うものでした。
ゆっくりと加速する場所が空中、というイメージも演奏を聞いていて浮かんで、ふわふわとしたところはあるのですが、ただよっているわけではありませんでした。地面からジャンプして空中に浮かび、そこからさらに上へ行くよう感じ。クラゲが空中で泳いでいるような映像が一番近いかもしれません。すいすいと空中を好きなように泳いで、気がついたら音がしみこんでいました。
野音の時に心配だった声もよく出ていて、歌い方が多少変わったかもしれませんが力強く、すべてを再現するわけではないのだから今の小沢健二という人がその曲を歌ったらどうなるのかを知ることができるのは、とてもしあわせなことでした。その歌に込められた意味や思いとそれをいろどる演奏の素晴らしさによって作り出された空間の素晴らしさは、あの場にいないと味わえないものだったので、今回の幸運には感謝しかありません! もっと彼のことを好きな人がライブに行くべきなのではないのかという気持ちもありましたが、自分で触れたからこそ感じられたことがたくさんあったので、素直に行ってよかったと思います。
一度リセットされてからのライブは演出含め心揺さぶられるものばかりで、過去があって現在がある、それぞれにたどってきたすじ道がここでリンクする様を見られただけで、思いがいっぱいになってしまいました。
一曲一曲について書くときりがないので、とりあえず今はこれだけ。


追記。
私は2階席だったのでステージ全体が見渡せて、人の表情はほとんどわからないぐらいでした。それがライブハウスでもフロアとステージを見渡せる場所を選ぶことが多いので私の中でぴったりな距離感だったので、単純にショウを楽しむことができたのかもしれません。
暗闇の演出も本当にまっくらに感じられたので、後になっても何回か目をつむって音を聞いて感じました。ライブの次の日に、闇に関する文章を読んだため、やたらとリンクさせて考えてしまいます。


岡崎京子さんについては、語るべき言葉を持っている方にお願いしたいです。