橋本治「浮上せよと活字は言う」

浮上せよと活字は言う (平凡社ライブラリー)

人は、なかなか自分のことが分からない。それがために、“批評”という他者の作業は、存在理由を持つ。表現だけしてしかしそれを言葉によって説明することが出来ない者は、「それを説明しなければならないのだ」ということを、それが可能な人間によって説明されなければならない。そうされなければ、分からないものは分かれないのだ。

画像は文庫ですが、単行本として刊行されたのは1994年なので今とは状況が大分違っています。それでも映画、本、雑誌、ファッション、ジャンル、政治、そして言葉等々、移ろいゆくものについての記録と分析がされていてとても興味深かったです。
導入部分として最初に述べられたものが、シェイクスピアの「テンペスト」を本人流に噛み砕いて映像化したピーター・グリーナウェイの『プロスペローの本』という作品についてで、どんなものなのか説明されるたびにその画を実際に見てみたいと見事にそそのかされてしまいました。「テンペスト」も読んだことがなかったため、普通に見ていたら解釈するのに苦労していたかあるがままに受け入れていたかもしれませんが、さりげなく解説されていたので見た後にまた読みたいです。橋本さんが行間と呼んでいた、グリーナウェイ監督のオリジナル部分についても興味をそそられることばかりで、『枕草子』は落胆するのが怖くて借りられないままでいるため先に『プロスペローの本』を見たら勇気が出るかもしれません。
また、中盤から語られる雑誌についても初めて知ることが多く、新創刊と休刊・廃刊の年別集計が時代もあらわして面白かったです。発刊当初と違った内容になっている雑誌もあって、第一号を読んでみたくなりました。

『JJ』の“JJ”は“女性自身”の略である。『週刊女性自身』という女性週刊誌の雄が、「女性週刊誌の読者になるような女性達は、どれだけ着るものに悩んでいるのだろうか?」という前提に立って作った雑誌が『JJ』なのである。