猫の客

猫の客

「猫」
物語かと思っていたら日常記で、淡々としながらも少しずつ猫に愛情を抱いていく様や、奥さんと猫との少し変わった関係性や、一昔前の生活の状況や確かに生きている庭の様子などが、一定の距離を置いて書かれながらもきちんと色を持って描かれていました。選び抜かれた単語の一つひとつに妥協がなくて、とても美しい文章を綴る人だなあと思って略歴を見てみたところ、詩人さんでした。「逍遥」という単語が出てきたときには思わず興奮してしまって、ああこの響き、そしてこの形!としばらく漢字の部首遊びまで始めてしまいました。
物語ならば終わってしまうところなのに、その続きがまだあって、どこまでも距離を置いて書かれているから余計にこちら側の感情が揺さぶられてしまって、猫との付き合い方から発生した良いこと悪いこと、終わっていく庭の描写など、あっさりとしているのにとても余韻の残る作品でした。猫のことだけではなく、年を経てからまた読んでみたいです。