アナログフィッシュ“キッス・ジャパン・ツアー”ファイナル

毎度のこと、原宿からダッシュして開演ぎりぎりに到着。と、想像していたよりもフロアがすかすか。ぎゅうぎゅうで何も見えないかもと心配していたのに、真ん中あたりに行ってもすっかすか。あれあれ? と不安になりながら、七時を過ぎ、少しずつ地面が見えなくなってきてもゆったりとスペースが見えるような状態で客電が落ちてライブがスタート。
一言で表すなら「もったいない」につきるライブでした。何がもったいないって、ここでこんなに良いライブが行われているというのに、それを見る人が少ないなんてもったいない! もっと沢山お客さんが入るのに、本当にもったいない! 
ゆったりとできたので三人の姿がじっくりと見られて良かった部分もあるのですが、満杯にするならリキッドでやった方が良かったのかな、でもAXでファイナルをやるってことにも意味があるのだろうな、なんてことを考えたりもしました。でもこれだけライブでよく見えることなんてないのだから、と演奏する三人をじっくり見つめてきました。
そして今回釘付けになってしまったのは、舌を出して変態っぽい仕草をしたりする健太郎さん……というと別の人を思い出すので佐々木さん、でもなく、生の帽子姿をちゃんと見られて満足しつつ姿勢が良くてすっと立って演奏するなあという印象を受けた下岡さんでもなく、その二人の中にいる、メガネドラムの斉藤さんでした。眼鏡が最初の方で飛んだとか、とても嬉しそうに演奏をしていたからとか、スーツ姿でドラムを叩いていたからとか、そういう部分もあるにはあるのですが、彼に目をひきつけられた一番の理由は、とてもとても、綺麗にドラムを叩いていたからでした。どんなに激しくても手とその先にあるスティックが美しい線を描いているかのようで、決して乱れなくてどうしてもそこを見てしまいました。姿といでたちから湯浅さん?……いやいや坂田学さんを連想したりしつつ、普段はなかなかドラムを見る機会がないので、ほとんど彼の演奏を見ていたような気がします。ドラムを叩く彼の姿は本当に綺麗でした。曲それぞれも同じパターンを繰り返すだけではなく遊んでいるかのように見せる部分があって、聞くだけではなく見る楽しさもありました。ハイハットの上にタンバリンをつける曲も結構あって、しゃんしゃん鳴る音も楽しかったです。

曲に関すること、というよりもステージに関することで、今回も照明によって一気に引き込まれたものがありました。ライトがたくさんつけられた棒というか、そんな感じのものの位置がかなり低いところにあってライブハウスという雰囲気がよく出ていました。アルバムでも哀愁があってなんだか良さそうと思っていた「ハーメルン」が、曲始まりに照明が落とされて三人だけがぼんやりと照らされゆらゆらと揺れているような演出がされていて、とても幻想的で彼らの作り出す世界に引き込まれてしまいました。次第に光の量が増えてきて、フロア左横の壁にドラムを叩く斉藤さんの影がぼうっと浮かんでいて、それもぞわっとするぐらい良かったです。続いて「ナイトライダー2」も気に入っていた曲だったのでやっと生で聞けたと嬉しくなりつつ、次にやった曲が初めて聞いたのにこれまた良くて良くて、盛り上がるとかいうことではなくて、生で演奏されている音に飲み込まれるような錯覚をおぼえるぐらいのパワーを持っていました。アマゾンアマゾン、と曲名を後で調べようと思っていると、他の方ところで「バタフライ」だとわかりました。実は初期の曲をまだ聞いていなかったので、チェックしてみます。それにしてもあの空気、すごかった。
「Town」を聞きながら感傷的になってしまい、やっぱりこの曲好きなんだなと再確認して自分の住む街について思いをめぐらせてみたりもしました。なんとなくもう終わってしまうのかと切なくなりながら、「僕ったら」でしんみりしつつ本編が締められました。あと、三人とも声がちゃんとしているのでコーラスがとても心地良かったです。力強いのにすっと抜けるような感覚がありました。
今まで彼らのライブがどんな感じだったのかわかりませんが、ゆるゆるのMCもお客さんとの関係も結構好きで、最初に盛り上がった曲を持ってきてそこから彼らの持つ独自の世界へと連れていかれるようなものが演奏されるのもまた、興味ひかれました。二回目のアンコールで披露された下岡さんの新曲「鰯(仮)」も鼓膜がびんびんするぐらい声に力がこめられていたこともあって気に入ってしまい、ちゃんと音源化されるということで楽しみです。
フロアにこんなに空きがあるのもったいない、もっと沢山の人のところに届く音楽がここで鳴らされているのに!という思いは今でもあって、もう一度見てみたくなってなぜかジョントポールのチケットを購入してしまいました。フジと日程がかぶっていないかドキドキしていたのですが、幸いにも別だったので一安心。シングルだけ聞くと割とポップな印象を受けますが、他の曲は結構深くうごめくものがあったりして、ラストが「世界は幻」で客出しにかかった一曲目がユーミンの「やさしさに包まれたなら」だったことにもポイントをつかれてしまいました。彼らの発するパワーというかグルーヴのようなものに巻き込まれてしまったせいか、タワレコで買おうと思っていたアルバムを試聴するだけで帰ってしまうほど、どうにかなってしまったようです。あのライブ、盛り上がりという点ではいまいちだったかもしれませんが、私の心にどん、ときました。